
裁判や調停、和解などで決まった金額を相手が支払わない場合、相手の財産を差し押さえる必要があります。
では、相手の財産がわからない場合、どうすればいいでしょうか。
このような場合のために、財産開示手続という方法があります。
財産開示手続について鹿児島あおぞら法律事務所の弁護士が解説します。
財産開示手続とは、債権者(お金を請求する側)が債務者(請求される側)の財産に関する情報を取得し、強制執行の実効性を高めるために行われる手続きです。
この手続きは、債務者が裁判所に出頭し、自身の財産状況を陳述することで、債権者が必要な情報を得ることを目的としています。
以下に、財産開示手続きの詳細を解説します。
財産開示手続きは、債権者が債務者に対して裁判で勝訴しても、債務者が任意に支払わない場合に、強制執行を行うための情報を得るために必要です。
債務者の財産がわからない場合,強制執行が困難になるため、この手続きが重要です。
財産開示手続きを申し立てるには、以下の要件を満たす必要があります。
①ー1 執行力のある債務名義:
確定判決、調停調書、公正証書などを持っている必要があります。
これらの文書は、債務者に対する強制執行の根拠となります。
①ー2 一般の先取特権: 債務者の財産に対する一般の先取特権を有することを証する文書を提出する必要があります。
一般の先取特権は、他の一般債権よりも優先的に債務者の財産から回収できます。
例えば養育費や婚姻費用など子の監護に関する費用については,社会全体で子を扶養すべきなので、一般先取特権として他の一般的な債権より優先されるのです。
②知っている財産を差し押さえても完全な弁済を得られないこと
差し押さえるべき財産が不明な場合や、既知の財産に対する強制執行でも完全な弁済が得られない場合に申立て可能です。
③3年以内に財産開示手続きにおいて財産を開示していないこと
2020年の法改正により、財産開示手続きを無視した場合や虚偽の陳述をした場合には、刑罰が科されることになりました。
具体的には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることがあります。
この罰則は、債務者が誠実に財産を開示するよう促すためのものです。
債務者が出頭しないなどの場合は,債権者が警察署に刑事告発することができます。
過去の事例では罰金や逮捕に至るケースもありました。
また相手が仮に財産開示手続きに出頭しない場合も,刑事告発という交渉カードが増えることになります。
①申立書類の作成と提出
財産開示手続申立書、当事者目録、請求債権目録、財産調査結果報告書などを準備し、裁判所に提出します。
これらの書類は、債権者の主張や債務者の財産状況を明確にするために重要です。
②財産開示期日の設定
申立てが認められると、約1ヶ月後に財産開示期日が設定されます。
裁判所から債務者に呼出状と財産目録提出期限通知書が送られます。
この通知書には、財産目録の提出期限や財産開示期日の詳細が記載されています。
③財産目録の提出
債務者は財産目録を提出し、財産開示期日に裁判所に出頭します。
財産目録には、債務者の全ての財産を記載する必要があります。
財産目録の提出は、債務者が誠実に財産を開示するための重要なステップです。
④財産開示期日での陳述
債務者は宣誓の上で財産状況を陳述します。
債権者は許可を得て質問することができます。
この際、債務者は財産の所有権や管理状況について詳細に説明する必要があります。
財産開示手続きで開示される財産には、以下のようなものがあります。
①給与・俸給・役員報酬・退職金を支払う勤務先
債務者の収入源となる給与や俸給、役員報酬、退職金などを支払う勤務先の名称や所在地を開示してもらう必要があります。
②預金・貯金・現金:
債務者が保有する預金や貯金、現金などの資産が含まれます。
金融機関であれば支店まで開示してもらう必要があります。
③生命保険・損害保険
債務者が加入している生命保険や損害保険の契約内容が開示されます。
④売掛金・請負代金・貸付金
債務者が他者(第三債務者といいます)に対して持つ売掛金や請負代金、貸付金などの債権が含まれます。
第三債務者の名称や所在地,住所、契約内容を開示してもらう必要があります。
これらの債権は、債務者が将来的に回収できる可能性がある財産です。
⑤不動産
債務者が所有する不動産や賃借権が開示されます。
ただし通常は,財産開示手続き申立前に、債務者の住所や所在地の登記情報を取得し,所有権を有しているかどうかを調査します。
⑥自動車・ゴルフクラブ会員権
債務者が所有する自動車やゴルフクラブ会員権などの特定の資産が含まれます。
⑦株式・債権・出資持分・手形小切手・主要動産:
債務者が保有する株式や社債などについて,証券会社を開示してもらう必要があります。
⑧その他の動産
例えば、債務者が所有するアート作品や貴金属などの特定の財産が含まれます。
参考サイト 財産開示手続きについて 東京地裁民事21部
①強制執行の実効性向上
財産開示手続きにより、債権者が債務者の財産状況を明確に把握できるため、強制執行が有効に行えます。
②罰則の強化
法改正により罰則が強化されたことで、債務者が誠実に対応する傾向が強まりました。
出頭しない、開示しないことで刑事罰が科せられることになりますので,逮捕や刑事罰を恐れて財産を開示する可能性が高まります。
③交渉の促進
財産開示手続きにおいて財産状況を明確にすることで、交渉や和解を促進することができます。
財産開示手続きにおいては債務者は出頭義務がある上,債権者には質問権があります。
したがって、財産開示手続きは,債務者から直接財産状況を確認できる唯一の機会といえます。
なお,債務者は宣誓の上で質問に答える必要がありますので,当然ながら嘘をつくことはできませんし,隠すこともできません。
①手続きの複雑さ
財産開示手続きは複雑で、弁護士の依頼が必要になることが多いです。
これにより、手続きのコストが増加する可能性があります。
②回収保証の欠如
財産開示手続き自体では債権の回収が保証されないため、別途強制執行の手続きが必要です。これにより、債権者がさらに時間とコストを要することがあります。
財産開示手続きは、債権者が債務者の財産状況を明確に把握し、強制執行を有効に行うための重要な手段です。
法改正により罰則が強化されたこともあり、債務者が誠実に対応する傾向が強まっています。
ただし、手続きが複雑であるため、弁護士の依頼が必要になることが多く、別途強制執行の手続きが必要です。
財産開示手続きは、債権者にとって有益な手段であり、適切に利用されることで、債務回収の効率化が期待できます。
日本の執行制度は使いづらい上に実効性に乏しく、裁判で勝っても相手からお金を回収できないというケースもありますが、財産開示手続を使うことで、これまで以上に相手の財産を把握でき、より実効的な債権回収が図れるようになります。
既に勝訴判決が確定していたり、調停が成立している方で、財産開示手続に関するご相談があれば、鹿児島あおぞら法律事務所までぜひご連絡ください。
鹿児島あおぞら法律事務所は初回無料相談です。
執筆者: 鹿児島あおぞら法律事務所
代表弁護士 犬童正樹
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